デザインも、展示企画も、ものまねも。「頼まれたから」で、ここまで来た。Jalart design・たけうちまりえ
色 — 人・街の挑戦

デザインも、展示企画も、ものまねも。「頼まれたから」で、ここまで来た。Jalart design・たけうちまりえ

油絵を学び、大学院では現代美術史とアートマネジメントを研究し、いまはデザインと
展示企画の両方に携わる、たけうちまりえさん。これまでの歩みを尋ねると、本人は何
度も「頼まれたから」「流されてきたんです(笑)」と話した。けれど、その時々で人
や作品に向き合い、必要そうなことを考え、できることを少しずつ増やしてきたらし
い。広島で、これまでギャラリーに入る機会のなかった人にも作品を見てもらい、でき
れば「初めて絵を買う」瞬間に立ち会いたい。そんな現在の仕事と、そこに至るまでの
話を聞いた。

PROFILE|たけうち まりえ

1993年、岡山県生まれ。岡山県立総社南高等学校の美術工芸コースで絵画を学び、広島市立大学芸術学部美術学科油絵専攻へ進学。大学院(造形芸術専攻・芸術理論研究)では、現代美術史とアートマネジメントの両方を学び、約4万字の論文を執筆した。現代美術館・ギャラリーでのインターン、学生と取り組んだ地域おこしアート展の企画を経験し、学芸員資格を取得。大学院修了後は広島市内のギャラリーに約1年半勤務した。退職後、知人から依頼されたチラシや名刺の制作をきっかけに、IllustratorとPhotoshopを独学で習得。2020年にJalart designを開業した。デザイン業務と並行し、ショッピングモール内のギャラリー運営、市の委託によるアート展、市内ギャラリーホテルでの展示企画などを手がけている。2024年には「広島ものまね軍団」を結成し、演者としても活動する。


絵を買うことが、もう少し日常になったら

——まずは、いま一番宣伝したいことがあるとか(笑)。

はい、まずは宣伝させてください(笑)。8月29日から、Oh studio hiroshimaで「JALART DESIGN EXHIBITION」を開催します。広島在住の4人の絵描き、おかももこ、ONIKU kuitai、カエデ·メメモリ、かいみさきによる作品展です。前日の8月28日、20時から23時まではオープニングパーティーもあります。作品を見るだけでも大丈夫ですし、申し込みも必要ありません。初めてギャラリーへ来る方にも、気軽に足を運んでもらえたら嬉しいです。

——どんな方に来てほしいですか?

美術関係者だけではなく、絵を見ることは好きだけれど、これまでギャラリーへ入る機会がなかった方にも来てほしいです。むしろ、そういう方に気軽に来てもらえたら嬉しいなと思っています。作品を見て、もし気に入ったものがあれば買う。そんな選択が、特別なことではなく、もう少し日常に近いものになればいいな、と。


約50人の作家と、「最初の一枚」に立ち会った1年半

——その思いは、どこから生まれたのでしょう。

広島市中区のサンモール内で、1年半ほどギャラリーの運営を担当した経験が大きいです。会期約1か月のグループ展を10回ほど開催し、合わせて約50人の作家と関わりました。

そこで何度も出会ったのが、「絵を買うのは初めてです」と言って作品を選ぶ方でした。ギャラリーに入ったことのなかった人が足を運び、初めて自分のために作品を買う。その瞬間に立ち会えたことが、本当に嬉しかったんです。作家の作品を紹介することと、アートを買う人を増やすことは、もしかしたら同じところにつながっているのかもしれない。そう思うようになった経験でした。

過去に企画した展示会の様子

——ご自身も作品を集めているそうですね。

集めているほどではないですが、これまで関わった作家を中心にいくつか買わせていただいています。展示で作品が売れて手数料をいただいても、そのお金でまた作品を買ってしまうので、結局、家に絵が増えていく仕事みたいになっています(笑)。だんだん飾る場所がなくなってきたので、いつか県外で、広島の作家を紹介できるコレクションギャラリーをつくれたらいいな、とは思っています。

アートコレクションしている部屋の様子

描く側から、作品を届ける側へ

——もともとは、ご自身が油絵を描いていたんですよね。

広島市立大学では油絵を専攻していました。周りには、本当に魅力的な作品をつくる友人がたくさんいて、「この人たちの作品が、もっと多くの人に届いたらいいのに」と思うことが増えていったんです。自分が描き続けることよりも、作家が制作に集中できる環境をつくったり、作品のことを伝えたりする側の方が、自分には合っているのかもしれない、と考えるようになりました。

そこで大学院では、現代美術史とアートマネジメントの両方を学びました。作品そのものを読み解くことと、展覧会や場を通して社会へ届けること。その二つを学んだ経験が、いまのキュレーションや展示運営につながっているのかもしれません。

過去に企画した展示会の様子

見る、聞く、言葉にする。キュレーションの仕事

——キュレーションの仕事は、どのように始まりましたか?

最初は、Oh studio hiroshimaの方から「若手作家の展示を企画してほしい」と声をかけていただいたことがきっかけでした。その後、別のギャラリースペースからも企画の相談をいただくようになり、ホテルでの展示や、年に一度の企画など、少しずつ仕事が広がっていきました。最近では、作家本人からキュレーションを依頼されることもあります。

——作家から依頼された「人間未満/人間以後」は、どのように企画したのでしょう。

広島を離れる20代前半の作家二人から、「最後に、たけうちさんに企画してほしい」と依頼された二人展です。まず二人に話を聞き、これまでの制作や作品に共通するものと、異なるものを整理しました。

二人は高校・大学と経歴が重なり、趣味も似ていて、どちらも人物画を描いています。ただ、人間の捉え方と表現は対照的でした。一人が描くのは、人間になりきれていないような存在。もう一人が描き続けている少女像は、本人にとってミューズや神様のような、人間を超えた存在です。そこから「人間未満/人間以後」というタイトルをつけ、人物画に絞って展示を構成しました。

作家の話を聞いて、作品を見て、展覧会の軸を考え、タイトルコンセプト文をつくる。さらにDMなどのデザインまで自分で担当できるので、キュレーションデザインの両方をやってきたことは、仕事の中で少しは役に立っているのかなと思います。

——今回の「JALART DESIGN EXHIBITION」では、また役割が違うそうですね。

今回は4人の作家を紹介するグループ展なので、作品を一つの解釈でまとめるキュレーションというより、企画・選定・広報・会場づくりまでを担うディレクションに近いと思っています。展示によって必要なことが違うので、その都度、自分がどこまで入ると作家さんと会場の方が動きやすいのかを考えるようにしています。


キュレーター」という肩書きとの距離感

——キュレーター」と呼ばれるのが苦手だそうですね(笑)

実は、そうですね…(笑)私が思う「キュレーター」というのは、その作家や作品をしっかり調査・研究・批評して熟考したコンセプトを提示し、作り上げた展覧会を通して社会の課題と繋げていく、そんなイメージなので。私がやっていることは、そこまで専門的ではないなと考えているので…なるべく名乗りたくなくて。ただ、最近は肩書きを気にするよりも、実際に何をしているのか、どこまで責任を持つのかの方を、まずは大事にしたいと思って…なので、今まで周りに「キュレーター」と呼ばれるたびに否定したりしてたんですけど、私がやっていることを見てくださって、そう言ってくださるなら、もうありがたく受け入れようかなと。

過去に企画した展示会の様子

頼まれごとから始まった、デザインの仕事

——デザイナーとしての仕事は、どのように始まったのでしょう。

大学院修了後に広島市内のギャラリーで約1年半働き、退職したあと、同級生や起業した知人から「チラシをつくってほしい」「名刺をつくってほしい」と頼まれるようになりました。当時はデザインの専門知識がなく、IllustratorもPhotoshopも退職後に独学で覚えました。

最初からデザイナーになる計画があったわけではありません。「できそうだから、やってみよう」くらいの気持ちで引き受けて、分からないことを一つずつ調べながら形にしていきました。そうしているうちに少しずつ依頼が増え、2020年にJalart designを開業しました。いまはチラシ、名刺、ロゴウェブイラストパッケージなど、いろいろな制作をしています。当時は、それが7年も続くとは思っていませんでした(笑)

デザイン

——仕事はどのように広げてきましたか?

退職後に経験した複数の仕事やアルバイトも、人と出会う機会になりました。たとえば、アルバイト先で「デザインもできます」と話したら、「じゃあメニュー表をつくって」と頼まれたことがあります。最初から営業のつもりだったわけではないのですが、結果的には、そういう会話が仕事につながっていきました。まずは「やってみます」と引き受けて、実績が増えるにつれて、仕事の範囲や価格も少しずつ見直してきた感じです。

——フリーランス7年、順調でしたか?

うーん、どうでしょう(笑)納期が1週間ほどの短期案件が中心で「明日中」「明後日中」でも空いていれば対応するスタイルなので、予定を固定しすぎず、必要なときにすぐ動けるようにしているというのはあるんですが…未だに来月の予定がないので(笑)案件が減っていき、そろそろバイトでも探した方がいいかな?と思ったところに、数年前に知り合った人から連絡が来る。それが重なって増えて、また減っていく――そんな奇跡が、7年間ずっと続いている状態です(笑)本当に、ありがたいですよね…


断らないことと、すぐに結果を求めないこと

——その「奇跡」を生んでいるのは何でしょう。人脈?キャラクター

あ、そういえば…開業する時から大切にしている金言が2つあります。
一つは父から言われた「4年間断らなければ、絶対成功する」という言葉です。それを、ずっと守ってきました。とにかく断らないって、結構大変なんですよね。ただ、もう4年は過ぎてしまったので、これからどうしようかな、と(笑)…でも、去年くらいから新しいフェーズに入ってきているのを実感しています。というのも、最近はボランティアのような活動が多くなってきて。NPO法人の理事として子ども食堂をやったり、若手作家の支援をしたり、イベントをしたり、メディアに出たり。今まではがむしゃらに断らないを続けてきましたが、本当に自分がやるべきことをやる時期に来たのかなと、なんとなく感じています。

もう一つは、とある経営者の方から言われた、「名刺交換をして、3年以内に仕事につながればいい方だよ」という言葉です。この言葉のおかげで、どんな小さな出会いも大切にしようと心がけて、今までやってこれた気がします。実際に、数年後に思い出して依頼してくださる方もいて、この言葉の意味を実感しています。


熱い思いは、ない。「流されて生きる」

――先日の中国新聞の取材のとき、何を書くか悩んだそうですね。

「どういうことを書けばいいですか」と聞いたら、みんな自分のやりたいこと、熱い思いを書いている、と。でも私、熱い思いがないなと(笑)やりたいことを書けと言われても、やりたいことがない。全部、本当に流されて生きてきたので。以前、講演を頼まれたときは、タイトルを「流されて生きる」にしたくらいです。流されて生きた結果、それでも良かったよ、という話をしました。いろいろなことを、結局、頼まれてしかやっていない。デザインも、展示企画も、ものまねも、始まりは「やってみない?」という誰かの言葉でした。「やって」と言われて、できそうだから引き受ける。ずっと同じですね。

——これから、どんな役割を担っていきたいですか?

私の周りって、私と違って、やりたいことをしっかりと持っている人が多いんです。なので、そういう人たちを繋いで、みんなのやりたいことの実現をサポートすることが私の役割かなと思っています。


表現する側と、支える側。その両方を知る

——ものまねのお仕事についても聞かせてください。

お仕事というほどでもないのですが…(笑)2年ほど前、そごうの屋上のイベントで「ものまねをやってみて」と頼まれたことがきっかけでした。その後、いろいろな方からお声がけをいただき、月に1、2回ほど出演するようになり、仲間が集まって2024年に「広島ものまね軍団」を結成しました。広島はスポーツがとても盛んな街です。その一方で、音楽やパフォーマンスなど、エンターテインメントの場も、もう少し増えたらいいなと思っています。自分自身が演者として人前に立つ経験も、作家さんや表現者を支える仕事のどこかにつながっているのかもしれません。

編注:実は2020年、Jalart design開業と同じ年に、東京のものまね事務所からスカウトを受けている。コロナ禍で立ち消えになったが、演者としての素地は筋金入りだ

ものまねの活動をしている時の様子

頼まれたことを続けた先に

取材の間、たけうちさんは何度も「頼まれたから」「流されてきた」と笑った。話を聞いていると、その「流される」は、何も考えずに身を任せることとは少し違うように見えた。作品を見て、人の話を聞き、必要そうな言葉やデザインを考え、最後まで形にする。本人はまだ、それを大げさな言葉で呼びたくないのかもしれない。それでも、その繰り返しが、いまのデザインと展示企画の仕事につながっているのだろう。

8月末に始まる「JALART DESIGN EXHIBITION」も、きっとその延長線上にある。作品をつくる人と、これまでギャラリーに入る機会のなかった人が出会う場所。そこで誰かが、「初めて絵を買ってみようかな」と思うかもしれない。たけうちさんが増やしたいのは、そんな小さなきっかけなのだと思う。


掲載情報|JALART DESIGN EXHIBITION

Jalart designが紹介する、広島在住の4人の絵描きによる作品展。初めてギャラリーへ来る方も歓迎します。

出展作家:おかももこ、ONIKU kuitai、カエデ·メメモリ、かいみさき
会期:2026年8月29日(土)~9月6日(日)13:00~19:00
オープニングパーティー:2026年8月28日(金)20:00~23:00
会場:Oh studio hiroshima(広島県広島市中区小町9-13 3F)
入場:無料・申し込み不要
問い合わせ:Instagram DM @oh_studio_hiroshima
関連展示:同ビル1階のカフェにて、Jalart designのコレクションも展示中

たけうちまりえさんを応援する

——JALART DESIGN EXHIBITIONへ行く

「絵は好きだけれど、触れる機会がなかった」という方にこそ開かれた展示です。作品の購入は、作家の次の制作を支えます。自分の暮らしに迎えたい一枚を、自分の感覚で選んでみてください。

——デザイン・展示企画を相談する

Jalart designでは、チラシ、名刺、ロゴウェブイラストパッケージなどのデザインから、展覧会の企画・ディレクションまで相談できます。

——ものまねの出演依頼をする

各種イベントパーティメディア出演など、ステージの出演依頼ができます。イベントの規模や内容に応じて相談できます。

TEXTYUTO(28)
応援アクションSUPPORT ACTION

この挑戦を、応援する。

デザインなどの相談をする
YUTO(28)
EDITOR IN CHIEF / UNDERDOGS CREW
ストーリー一覧へ
U取材を
依頼する