十日市のお寺とのご縁から始まった、凸凹夫婦の経営が動かすお寺の新しい未来。「お寺カード(廻縁)」と国際交流への挑戦。
職 — 企業の挑戦

十日市のお寺とのご縁から始まった、凸凹夫婦の経営が動かすお寺の新しい未来。「お寺カード(廻縁)」と国際交流への挑戦。

広島市内 | 合同会社fuji&more 岩藤義明・岩藤由美子ご夫妻 2026.07.10 TEXT:YUTO(28) PHOTO:RIKU

Web系エンジニアとして約20年。会社の看板を下ろし、フリーランスとして独立した岩藤義明さんが、次のフィールドに選んだのは意外にも「お寺」だった。

きっかけは、父の逝去と墓じまい。そこで生まれたお寺とのご縁が、妻・由美子さんとの夫婦起業へとつながっていく。デジタルの世界で生きてきた二人が、"ザ・アナログ"なお寺業界に飛び込んで見えたものとは何か。

初めての自主イベントを終えた、まさにその翌日。

安堵と興奮の入り混じるお二人に、これまでの歩みとこれからの挑戦を聞いた。

自己紹介:エンジニアからお寺の世界へ

――まずは自己紹介と、お仕事の内容から教えてください。

夫・義明さん

合同会社fuji&moreの岩藤義明と申します。この会社を作ったのは今年なんですが、それ以前はフリーランスとしてWeb系のエンジニアを約20年やってきました。フリーランスとして独立してからは2年目。今年は法人も立ち上げて、フリーランスと会社の二本立てで活動しています。

会社はWebマーケティングを主体に立ち上げたんですが、最近はお寺に特化したイベント事業を始めていまして。今後はそちらをメインの主軸に変えていきたいと思っています。妻と一緒に起業した会社です。

妻・由美子さん

岩藤由美子と申します。夫はシステムエンジニアの流れからWebの売上促進コンサルタントをしていて、私はイベント事業をメインで担当しています。

お寺に特化したイベント事業ということで、地域の方々が盛り上がるように設計して、お寺が本来持っている機能を保てるようにしたい。そんな気持ちでやっています。

きっかけは、墓じまい

――「お寺」に着目されたきっかけは何だったのでしょう?

妻・由美子さん

2025年3月に、夫のお父さんが亡くなりまして。お母さんはもともと早くに亡くなられていて、吉和の方にお墓があったんです。今回、お母さんとお父さんを一緒にしようということで墓じまいをさせていただいて。その時に、十日市のお寺(眞光寺)とのご縁ができました。

そこで初めて「お寺の現状」というものを知ったんです。私たちも墓じまいからご縁をいただいたので、何かお手伝いできることがあれば、と。お寺でイベントをすることによって、そのお寺のことを知っていただきたい。そういう気持ちで始めました。

――「集客のサポート」というと、具体的にはどんなことをされているんですか?

妻・由美子さん

イベント事業はもちろんやるんですが、それはあくまで「フック」なんです。
お寺に足を向けてもらうための、一つの入り口。

お寺によっては、お金や人手が足りなくてイベントができないところもありますし、そもそもWebサイト自体が整っていないところの方が多いんです。だから、そういう部分のお手伝いもさせていただきますし、お寺にとって何かプラスになることを、私たちがやっていけたらと考えています。

イベントは「国際交流×瞑想」。開催は取材の前日

――これまでどんなイベントをされてきたんですか?

妻・由美子さん

実は、昨日のイベントが本当に初めてのイベントだったんです!

――そうだったんですね! 昨日はどんなイベントを?

妻・由美子さん

mosaiQ:という国際交流団体で活動されている、大学生の馬場うららさんと一緒に、「国際交流×瞑想」を掛け合わせたイベントをさせていただきました。

会場は、先ほどお話しした、墓じまいでご縁のあった眞光寺さんです。

――眞光寺さんは、どんな悩みを抱えていらっしゃったんですか?

夫・義明さん

眞光寺さんは宗教法人に加えて普通の法人格も持っているので、収益は比較的安定している方だと思うんです。ただ、「若い人が来ることが少ない」という悩みがあって、お寺に人を呼びたいという気持ちがある。

それに加えて、宿坊を作りたいという構想もあるんです。外国人の方に泊まってほしい、一棟貸しをしたいというお話があったので、それなら国際交流の方たちと組んだらいいんじゃないか、ということでご紹介させていただきました。

――準備期間はどれくらいだったんですか?

妻・由美子さん

イベント自体は1ヶ月くらい前に決まっていたんですけど、いろいろあってなかなか動けない時期があって。集客に使えたのは実質2週間くらいでした。なので、集客はほとんど国際交流の方にやっていただいたというのが現状です(笑)。

看板を失って知った、フリーランスの現実

――もう少し大きな括りで、これまでの人生で「ここがしんどかった」というポイントはありますか?

夫・義明さん

やっぱり会社員時代とフリーランスでは、仕事の安定度が圧倒的に違うなと痛感しました。

会社にいれば、会社という看板・名前を背負って仕事が降ってくる。

でも、いざ会社を一歩出たら、一気にその看板がなくなって、本当に自分の力で生き抜いていかなきゃいけない。それを痛感しました。

独立して最初の数ヶ月は、本当に仕事がなくて苦しかったです。どうやってお金を回していこうか、と。結局、自分でフリーランスエージェントに登録して、東京の案件・お客さんを獲得して、なんとか1年間回してきたんです。

ところが、つい先月ですね。そのお客さんの案件が減ってしまって、「どうしよう」と。二度目のピンチが来たんです。

でも、そこでもう一回頑張って、東京の別の会社さんを見つけてきて、今は案件がほぼ確定というところまで来ました。

フリーランスは本当に不安定で、いつ何が起こるかわからない。だから基本的には、フリーランスの本業をやりながらも、イベント事業を育てて会社を大きくしていく、という形にしたかったんです。

ただ、本業の方が押してくると、イベントに手が回らなくなる時期もあって。今なんとか本業の二度目のピンチを乗り越えつつあるので、イベントの方で会社を大きくしていきたいという想いは強いです。

東京で発症したパニック障害。「私は広島が大好きなんだ」

――ちなみに、ご結婚されてどれくらいになるんですか?

2012年に結婚したので、14年目ですかね。

――由美子さんにとって、この14年の中でしんどかったポイントは?

妻・由美子さん

東京に行っていた時期ですね。慣れないところで暮らすことの大変さを痛感しました。乗り物を乗り換えるとか、そういうストレスからパニック障害を引き起こしてしまって。それで、広島に帰ることを決めたんです。

東京の人は皆さん優しいというか、受け入れてくださるんですけど、大学から行っている方はいいと思うんですが、社会人になってから行くのはなかなか難しさがあって。その中で「私はやっぱり広島が大好きなんだな」ってつくづく思いました。常に「広島が、広島が」って言っていた気がします。他の人から見たら、その広島への想いの強さが良く映っていた部分もあったと思うんですけど、「これが私なんだな」と気づかされた土地ではありますね。

ただ、いいこともありました。行ったことのないところに行って、新鮮な気持ちになれたし、「洗練された街だな」とも思いました。良さもある。

でも広島の良さって、ちょっと田舎かもしれないけど、あの温かさなんです。居心地の良さは断然こっち。

街に「圧」がないというか(笑)。

「これもやりたい!」vs「採算は?」――喧嘩の絶えない夫婦経営

――実際、ご夫婦で一緒にお仕事をされてみて、いかがですか?

妻・由美子さん

私と夫は、良くも悪くも「全て」が違うんです。デコボコ。見る視点が全然違う。そこが良くもあり、悪くもあり……だから、もう、いつも喧嘩になります(笑)。

夫・義明さん

今回のイベントでも何回喧嘩したか。実は、この取材会場に来るまでの間にも喧嘩してます(笑)。

――イベントでは、どういうところが論点になるんですか?

妻・由美子さん

私は楽しいことが好きだから、採算度外視で「これもやりたい、あれもやりたい」になりがちなんです。来た人を絶対に喜ばせたい。それに対して「お金がもったいないでしょ」「現実的に厳しいよね」みたいなことを言われる。

夫・義明さん

会社の経営者だと、どうしても採算とかお金のことをすごく考えてしまうんです。悪い癖でもあるんですけど。「個人の趣味と会社は違う」というのがどこかにあって。経営者視点の時と、一個人として楽しむ時をちょっと切り分けたいなと、いつもそのせめぎ合いをやっています。今回はなんとかね、ギリギリ黒字でフィニッシュしたんですけども(笑)。

お寺業界の壁。「動いてくださった方にシフトする」

――寺院というのはかなり特殊な領域だと思います。実際にやってみて、周りの方や寺院の方々の反応で印象に残っていることはありますか?

妻・由美子さん

広島だからなのか、お寺だからなのか……とにかく、スピードが遅いんです。いろんなことが決まらない。「これだけのことを、7月7日にやりたいです」といろんな方にお声掛けしても、何も動かないことの方が多くて。

だから私たちは、「動いてくださった方にシフトする」と決めました。それをお寺さんにお伝えしたら、「早いですね」って言われるんですよ。「早くないよ」って思いながら(笑)。スピード感が全く違うので、あの遅さはちょっと厳しいなと思いましたね。

夫・義明さん

そもそも広島って、ビジネスにおけるスピード感がゆっくりというイメージがあるんですけど、お寺さんは特にそれがさらに遅い。

あとは、お寺さん特有の事情で、そもそもイベントみたいなものにあまり前向きじゃないところが多いんです。全部じゃないんですけど、「そんなことに人を集める必要はない」と言われてしまうこともあったり。

それから、宗教法人のお寺は収益事業に制約があるので、「利益が絡むからダメ」と断られることもある。逆に、宗教法人以外の法人格を持っていて、別のところで収益を得ているお寺さんもあったりして。その辺りの難しさは、今回すごく学びました。

――今後、その対策として考えられていることはありますか?

妻・由美子さん

今は浄土真宗にフォーカスしていますけど、宗派を越えてやっていけるのであれば、やっていきたいと考えています。曹洞宗のお寺さんなどにもお声掛けをしていこうと、今動き始めているところです。

支えてくれたのは、ご縁の始まりの場所だった

――挑戦の中で、周りの方々の支えを感じた場面を教えてください。

夫・義明さん

やっぱり、眞光寺さんです。私たちが墓じまいをさせていただいた、ご縁のあるお寺さんで、今回全面的にご協力いただきました。会場をお借りできたこと自体、眞光寺さんがなかったら今回のイベントはなかったです。

参加人数がギリギリまで確定しなかったんですが、最初に「予算はこれくらい」とお伝えしていたところ、「人数が減ったなら、ここまで下げてあげるよ」と、逆にすごく柔軟に調整してくださって。

しかも昨日は、突然お通夜が入ってしまって、お寺さんはすごくお忙しかったんです。それでも、私たちのために、事前に企画をきちんと共有していた部分をちゃんとやってくださって。本当にありがたかったですね。

「一日坊守体験」で知った、裏方の重み

――お寺という業界に触れて、ご自身の中での変化や気づきはありましたか?

夫・義明さん

業界的には、私のいた世界とは正反対だと思うんですよ。本当に”ザ・アナログ”。私はデジタルの人間なので、アナログの世界に入ったわけですが、そこにいる人たちのコミュニティが温かいんです。

だからこそ、今度は「デジタルアナログの融合」をやりたい。イベントで足を運んでもらう。そしてイベントの外では、Webやマーケティングの力で、お寺のことをもっと知ってもらうための発信をしていく。「イベントからマーケティングへ」という考え方で、両輪を回していきたいと思っています。

妻・由美子さん

宗教の世界だからなのか、思いやりの心を持っていらっしゃる方が本当に多くて。それに何度も助けられたと感じています。これからもそうやって関わっていくことで、ご縁を深めていければいいなと考えています。

――イベントを進める中で、特に印象に残ったエピソードはありますか?

妻・由美子さん

昨日は、坊守(ぼうもり)さん――ご住職の奥様がいらっしゃらない日だったので、自分たちが全部裏方として動き回ったんです。その結果、「結構大変だな」「いろいろできないと、結局ダメなんだな」というのを身をもって知りました。まさに「一日坊守体験」みたいな感じで(笑)。

すごく貴重な経験でしたし、学びました。これからは、もっといろいろなところに配慮しながら、一つ一つ学んでいこうと思っています。

文化の日に、お寺で日本文化を。筆の産地・熊野町の想いも乗せて

――昨日イベントを終えられて、参加者からの感想もあったと思います。それを踏まえて、今後どうしていきたいですか?

夫・義明さん

今回は8名の参加だったんです。天気の影響もあったし、集客が遅くなったのもあるんですけど、今後は倍増、もう少し規模を大きくしていきたい。

今回は外国人の方だけだったんですけど、若い人も、お年寄りも、日本人も外国人も問わず、日本文化の良さをもっと知ってもらいたいんです。

例えば11月3日って、祝日の「文化の日」じゃないですか。

文化の日は、お寺で文化を体験する――そういう一大イベントみたいなものができたらいいなと思っています。

妻・由美子さん

実家が熊野町で、筆の産地なんですね。今も絵手紙の企画などはやっているんですけど、筆をもっと、一人一回くらいは使ってもらうような。

筆で書道をやって、その中でコンテストじゃないですけど、グランプリみたいなものを決めたりして、みんなで盛り上がるようなイベントも、お寺でできたらいいなと思っています。

――イベント運営って、実際めちゃくちゃ大変ですよね。それでも楽しくやれるのは、何があるからですか?

夫・義明さん

やっぱり、昨日の参加者の方々が、喜んでくださったんですよね。

「お寺に来て、初めてこんな神聖な体験ができた。すごい」って。皆さん、本当に喜んでくださった。

それを見て、もっと多くの人に知ってもらいたいと思ったんです。苦労は絶えないんですけど、実際に喜んでくださった方がいるからこそ、もっと多くの人に届けたい。その気持ちになりましたね。

「推し寺」を作る。廻縁(かいえん)プロジェクトの構想

――このメディアを見てくださっている方が応援するとしたら、どんな応援の仕方がありますか?

夫・義明さん

もちろん「イベントに来てください」というのはあるんですが、うちには「廻縁(かいえん)」というプロジェクトがあるんです。

これがその「お寺カード」です。お寺に行けばこういう面白いイベントがあって、お寺にまつわるカードがもらえる、という仕掛けをしようと思っていて。

お寺に来れば、ご縁が回る「廻縁」。

縁起がいいから、若い人たちが集まる恋活・婚活みたいな企画をサブで仕掛けたりしてもいいなと思っています。

あわよくば「推し寺」――自分の好きなお寺を見つけてもらって、そこをクラウドファンディングのように応援する。新しい形のお寺の応援方法を、うちの廻縁を通して知ってほしいというのが、すごくありますね。

――このカード、可愛いですね

夫・義明さん

昨日のイベントで配ったんです。イベントごとに作っていて。

このカードが、お寺さん自体の「メディア」になるんですよ。ホームページがないお寺さんでも、SNSだけのお寺さんでも、うちが共有すればWebの方でつなげられるじゃないですか。

――まさにイベントデジタルの両輪ですね。廻縁プロジェクトの、その先の構想はありますか?

夫・義明さん

廻縁は、将来的にはフランチャイズ化をしたいと考えています。旅行会社とタッグを組んで、「廻縁ツアー」――お寺カードを集めながらお寺を回る、みたいな。広島から始めて、全国へ展開できたらと考えています。

――全国のお寺の方がこの記事を見てくださったら?

夫・義明さん

ぜひ「一緒に廻縁イベントをやりませんか」とお声掛けいただきたいです!

参加者の方にとっても、お寺に来ればカードがもらえて、収益の一部はお寺さんに還元されるので、間接的にお寺を応援できる仕組みになっています。ぜひ来ていただきたいですね。

「考えるより、動け」

――挑戦を始められて1年弱。同じように、いま何かに挑戦している読者の方々へ、最後にメッセージをお願いします。

夫・義明さん

頭で考えずに、まずやってみるしかない。本当に、考えたってダメなものはダメなんですよ(笑)。

とにかく、もうやるしかない。

実際に、いろいろもがきながらやって、なんとか第一回を無事に終わらせることができたので、本当に今、安堵しています。それまでは「大丈夫か、大丈夫か」と思っていましたけど――やってみるだけですよ!

妻・由美子さん

私たちは喧嘩はし合うけど、分かち合える仲間なんです。

皆さんの周りにも、絶対に信頼できる方がいると思います。

その人を大事にして、進んでいただければと思います。

また、とにかく、「考えるより動け」。それは本当に、心から思っています。

――ありがとうございました!

義明さん・由美子さん:ありがとうございました!


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  • イベントに参加する:年内にもう一回、イベントの開催を予定している。
  • 「廻縁(かいえん)」プロジェクトを広める:イベントごとに制作される「お寺カード」。カードはお寺のメディアとなり、収益の一部はお寺に還元される。
  • 全国のお寺の方へ:「一緒に廻縁イベントをやりませんか」。宗派を問わず、共催・参加のご相談を受付中。

編集後記

「お寺にまつわる文化を広めたい」という思いから、実現の第一歩を歩まれた翌日。

イベント開催の熱狂冷めやらぬタイミングで取材できたこと心より嬉しく思います。

お二人の熱量と、凸凹と表現されていましたが、それくらいバチっと合っていることが伺える相性の良さ。

取材をしていく中で、お二人のような方が本当の意味での仕事をされていくのだろうと感じました。

これからもUNDERDOGSで、廻縁プロジェクトの応援を行っていければと思います。

貴重なお時間をいただきありがとうございました!

編集長 太田 悠斗

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