「決める」ことから始まる社会変革。医療・介護の採用コスト削減と、誰もが誇りを持って働ける居場所づくりへの挑戦
医療・介護・福祉の現場では今、深刻な人材不足を背景に、本来は患者や利用者、現場のスタッフのために使われるべき報酬が、採用コストとして外部へ流れ続けている。年間数千万円、時には1億円規模――。
その構造に真正面から異を唱え、「自分たちの力で採用できる法人を増やす」というポリシーを掲げて挑む、株式会社K.I.パートナー代表の谷口香織さん。
農協職員からキャリアをスタートし、人材紹介ベンチャー、社会福祉法人を経て、コロナ禍を機に独立。現在は採用コンサルティングに加え、就労支援事業所の運営にも乗り出しています。
その芯の強さの源泉を辿る良い取材をさせていただきました。
-1024x576.jpeg)
谷口 香織(たにぐち かおり) 株式会社K.I.パートナー 代表取締役 / 株式会社CODEMARI 代表取締役
広島市出身。大学卒業後、農協にて営農指導員として5年間従事。その後、医療・介護に特化した人材紹介会社にてキャリアアドバイザー及び採用コンサルタントとして12年間活動し、1,000件以上のキャリアカウンセリングを経験。その後社会福祉法人での教育研修担当(3年間)を経て、コロナ禍を機に独立。医療・介護・福祉に特化した採用コンサルティング、採用代行、業務改善、組織づくりを手がける株式会社K.I.パートナーを設立。並行して株式会社CODEMARIを設立し、介護ロボットの開発、また「その人らしく」をコンセプトに就労継続支援B型事業所「にじげん」を運営する。3児の母。
株式会社K.I.パートナー 理念:「働くことが幸福感へとつながる社会へ ~人生を面白くする力を養う~」
公式サイト: https://www.k-i-partner.com/
医療・介護に特化した採用コンサル――「報酬が人材ビジネスに流れる現状を変えたい」
――では改めまして、インタビューを始めさせていただきます。まず自己紹介と、今されている事業についてお伺いしてもよろしいでしょうか。
はい、私は株式会社K.I.パートナーという会社を経営しています。医療と介護と福祉に特化した採用のコンサルと採用代行、それから業務改善や組織作りなどを事業としてさせていただいています。
――その事業の中で、今注力されているところ、チャレンジしている部分はどのあたりでしょうか。
注力しているところ――採用や人材ビジネスは、日々ものすごく変化しています。特に医療と介護に特化しているため、その分野の採用周りは、1年前当たり前だったことが、今は違うということが頻繁に起こっています。そのため、最先端のものを常にキャッチする必要がありますし、最先端ものをクライアント様に提供していかないといけないため、採用におけるあらゆるチャレンジを行っています。
具体的にお伝えすると、例えば、病院で採用活動を行うとなると、あらゆる職種―医師、薬剤師、看護師、看護助手、介護職、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、診療放射線技師、臨床検査技師、ケアマネージャー、もちろん事務方の人たちもいる。そういった方たちをまんべんなく採用しなくてはなりません。
しかしながら、今の医療や介護の現場というのは、人が余剰に抱えることができない現状があります。
それは、仕組みの問題でもあります。人員配置という「あなたのところは看護師を何人は確保しなきゃいけない」といった国が定めた決まりがあります。でもその基準を下回ると減算になり、収入が減ります。逆に、それを上回る余剰の人員がいても、収入は変わることはありません。そのため、余剰人員というのをなかなか抱えられないというのが、今の医療や介護の現場の現状です。だからこそ、急な退職が発生してしまい、採用にお金をかけてしまう法人様がすごく多いです。
ただ私たちがポリシーとしてやっているのは――医療や介護の報酬は、医療保険や介護保険などの報酬なので、そこが人材ビジネスにどんどん流れていっている現状があまり良いものではないと思っています。自分自身でしっかりと採用ができるような組織の力、法人の力を持ってもらいたいと思って、そこをポリシーとして私たちが今事業をさせていただいています。
もうひとつの顔――就労支援事業「その人らしく」
――ありがとうございます。もう一つ、今見学させていただいた就労支援の事業についてもお伺いしてよろしいでしょうか。
はい、私は就労継続支援B型事業所「にじげん平和大通り」を、もう一つ経営している株式会社CODEMARIという会社で運営しています。もともとは介護ロボットなどを一緒に共同開発するために作った会社だったのですが、いろんなことに挑戦していこうということで、今の就労支援事業をやらせていただいています。
コンセプトは「その人らしく」。私としては、一旦社会で働くことが難しくなってしまった方が、いかに社会復帰していくかということを真剣に考えて取り組んでいます。
居場所じゃないのですが、「自分も社会に貢献できる人材なのだ」ということを、ちゃんと自信としてもらえるような、そういう事業所づくりをしています。
-1024x576.jpeg)
原点は「理不尽な環境」――人の心理と社会課題への関心
――採用コンサルと事業所運営、活動の幅が広がってこられているタイミングかと思います。ここで、これまでの歩みをお伺いしたいのですが、どんな青春時代を過ごされて、社会人になられたのでしょうか。
はい、そうですね。経歴――真面目に勉強をして、部活をして、高校へ行って大学へ行ってという風に過ごしてきたのですけど。私は結構、家庭環境があまり――外からは見えないのですが、父が非常に厳しかったので、理不尽な環境で育ってきているというのがありました。
だからなのか分からないのですが、人の心理にすごく興味があって。「なぜ父があんな言葉を発したのか」だとか、「友人がどうしてあの人をあんなふうに責めたのか」「どうして学校の先生のことをみんな悪く言うのか」そんなところにすごく興味がありました。興味があったというか、感受性が強くあったのかなと思っているのですけど。
そのため、心理学を学びたいという気持ちがあったのと、あとは社会問題にすごく関心がありました。
高校の時には、社会の先生や理科の先生を捕まえて「日本の現状で、先生は何が問題だと思いますか」とか、そういうのを聞いていく変な生徒だったと思います。でもその会話はすごく私の考え方を広げてくれたものだと感謝しています。
――働き始められたキャリアとしては、どこからスタートされたんですか。
大学を卒業してすぐ農協に入りまして、営農指導員という農業の指導員を広島市の近郊地域でしていました。5年で辞めまして、そこから医療と介護に特化した人材紹介会社の先駆け、ベンチャー企業に就職しまして、ここでキャリアを培わせていただきました。
――農協からベンチャー企業へというのは、なかなか大きな転身ですよね。どういったきっかけだったんでしょうか。
自分に挑戦してみたかったっていうのが大きくて。農協だと大きな組織なので、自分の影響が及ぶ範囲というか、自分が何か変えていけるというところがすごく少なかったんです。小さな会社でもっと挑戦していきたいなっていう気持ちもあって転職しました。
コロナ禍で仕事がゼロに。そこから始まった起業
――そこからご自身で事業をされるところまで、どのような経緯だったんでしょうか。
13年で退職をしまして、その後400人ぐらいの規模の社会福祉法人で、従業員の教育とか研修とかをマネジメントするような一人部署におりまして、そこで3年ぐらい経験をさせてもらいました。
すごく楽しくやってたんですけど、コロナ禍になって、一旦介護系の事業所の教育とか研修が全部なくなったんですよ。なのでお仕事がなくなりまして、どうしようかなって思っていた時に、友人が起業したばかりですごく大変だということで、お手伝いに入らせていただきました。
間近で起業した方を見ていると、自分もチャレンジしてみたくなって。本当に何がしたいのか、自分が世の中のためにどんなことができるのか、貢献できるのかということを考えて、今の事業を立ち上げました。
それが3年半くらい前です。一人でやってみようかなと思っていて、最初は個人事業主でやろうと思っていたんですけど、始めてみるといろんな人に支えられて、お客さんとかも増えてきて、一人じゃできなくなってきて。従業員が入ってきて、あるタイミングで法人成りをさせていただきました。
――段階的にいろんな変化を感じながら進んでこられたんですね。ご自身の中で大きかった変化、「自分ってこう変わったな」と印象に残っている瞬間はありますか。
そうですね。もうサラリーマンで一生を終えることが当たり前だと思っていたので。きっかけとして、同じタイミングで複数の接点のない友人に「絶対あなたは起業するべきだ」と言われたことがありました。その時はすごく否定したんです。
「私はそういうタイプじゃない」と否定したんですけど、こんなに同時に同じことを言われると「そうなのかな」って思ってきて。そこから色々調べて、起業のための本とかを読んだりとかして、「ちょっとじゃあやってみようか」と。
子どもが3人いるんですけれども、まずお金を稼いでいかないといけない。だけど子どもとの時間も確保したい、っていうので。ちょっとわがままの選択肢として「起業」をしようと。最終的には子どもとの時間を選んだんですけど――今は全然子どもとの時間は取れてない(笑)。
――お忙しいですもんね。お子さんはちなみにおいくつですか。
一番上が高校1年生で、真ん中が小学6年生で、一番下が小学3年生です。
――しっかり時間も作りながら、ですね。これから、家族との両立についてはどのように考えられていますか。
両立に関しては――日本の社会の歪みの一つでもあると思うんですが、女性がどうしても家事と子育てを担っていて、無理やり仕事との両立を余儀なくされる。ただ、一旦私はそこを放棄しようと思いまして。でも子どものことは絶対しないといけないと思っています。ですので、家事は全部人に任せています。それで両立を図っているという状態です。
「社会課題を解決したい」というブレない軸
――仕事で成し遂げたいことがあるからこそ、だと思います。その「成し遂げたい」に対する思い、どういうベクトルで活動されているのかをお伺いしたいです。
私は最初から最後までブレないものがあって、それは「社会課題を解決したい」という思いです。
先ほども説明した通り、医療の収入源となっている医療保険は、本来だったら患者さん、そこの病院で働く医療従事者のために使われるものだと思います。それが外部にどんどん流れていっていますが、そこを従業員の育成にあてて欲しいと思っています。
特に医療従事者とか介護従事者は、現場の技術的な研修や学びは積極的に受けるのですが、社会人としてのスキルアップのための研修はあまり受けられていません。
そして、一番この現場で苦しんでおられるのは管理職の方々なんです。部下の育成やチームビルディングなどの管理職研修やリーダー研修というのがなかなかできていないという現状があるので、そういった「人の育成」というところに、ちゃんと法人がお金をかけていけるような社会になったらいいなという思いがあります。
そして、もう一つあってですね。医療従事者ご自身がちゃんと誇りを持って働けるということがすごく大切だなと思っています。「看護師の資格があるから看護師をしている」というのではなく、自分の看護師としての仕事に誇りを持つというような、そういう社会にしていきたい。
それは内側からもちろん出てくるものだと思うのですが、周りの環境が作ってあげるということでもあると思います。そういうふうに自分の仕事を誇りに思えるような職場環境を作る、提供できる法人を増やしていきたいなと思います。
-1024x576.jpeg)
「丁寧に採用すれば、お金はかからない」
――すごく高い視座で医療・介護・福祉の領域を見られているなと感じます。今後、事業をどのように展開・拡大していきたいという方針はありますか。
そうですね。まずは病院経営――医療・介護の現場は、厳しいところがたくさんあると思います。なので、やはり出費というか、経費を減らしていただく。そこをお手伝いできたらいいなと思っているので、自分たちのサービスをいろんな方に提供したいなっていうのは想いとしてありますし、もちろん広島にとどまることなく、いろんな地域に私たちの想いが届いたらいいなと思っています。
――経費という点では、採用費がすごく大きいんですね。
すごく大きいと思います。何千万、1億、そういうレベルでかけていらっしゃるところが多いので。
――採用の事業の中で、「ここにこだわれば変えられる」というこだわりの部分はありますか。話せる範囲で構いません。
採用はお金がかかり、人事は仕事が多すぎる――きれいに丁寧にすべてやっていけば、そんなに費用かからずに採用できるんですけど、難しいのと手間がかかります。採用の人事周りっていうのは、どんどん新しいものに変わっていくので、そこに追いつけずに、お金をかけてとにかく採用するという風になっているところが多いんです。私たちが丁寧に採用活動を代行させて頂くことで、費用を驚くほど抑えることができるんです。
――無駄なコストや時間が結構多かったりするんでしょうか。
無駄なコストはすごくあると思います。結局、何からどう手をつけていいかわからない、とにかく人が来ない、だから一番コストのかかる採用方法を選ばれている、というところかなと思います。
農業×福祉×人材確保――次に描く「3本柱」の構想
――この記事を見た方が谷口さんを応援したいとなった時に、どういうアクションが取れそうでしょうか。これから展開していく中で必要なもの――人、場所、なんでも構いません。
そうですね。特に福祉の方でいろんなことを考えておりまして、障害者雇用と、それから今日本が抱えている社会課題の解決を同時に叶えるビジネスはないか、モデルケースとして何かないかなと考えています。
将来的にどうなるかわからないのですが、農業と福祉と、あとはその人材確保というところの3本柱で何かビジネス展開できないかなと思っていまして。応援してくださる方がすごく多いので。そこはもう少し発展しましたら、またぜひお話しさせてください。
――谷口さんの思いに共感された農業事業者さんや福祉領域の方々と、コラボ・協業できそうな範囲もあるということですね。
はい。まだ潜在的に、社会になかなか出られないというような、障害を持たれている方はたくさんいらっしゃると思いますし、それこそ8050問題(長期間引きこもり状態にある50代の子どもの生活を、80代の高齢の親が経済的・精神的に支え続けている家庭で生じる社会問題)もあります。そうでなくても、中学生・高校生の不登校、引きこもりだとか、そういったものを社会全体で支えていく、変えていく。
言葉はちょっと違ったように捉えられるかもしれないのですが、やはり皆さんがちゃんと働いて生産性を持てるというか、「世の中に自分がちゃんと存在しているんだ」ということに自信を持ってもらえるような社会にしていきたいなと思っています。
家から出られない、なかなか仕事に就けないという方に、どんどん表に出てもらえるようなことをしていきたいなと思っています。
――社会全体で救われる方が多い世の中になるといいですよね。
そうですね。ただ、ボランティアにしてはいけないと思っています。そこでもちゃんとビジネスとしての仕組みができるというのが大事だと思っているので。その仕組みを一緒に考えていただける方、協力していただける方、応援していただける方がいたらありがたいです。
-1-1024x576.jpeg)
挑戦者へのメッセージ――「決める」ということ
――最後に、今一緒に生きるチャレンジャーたちに向けて、メッセージをいただけますか。
「決める」ということ。
「そうなったらいいな」じゃなくて、「そうなる」。「それができたらいいな」じゃなくて、「できる」。そうなる、できると“決める”ということを、私はやっています。
――……震えました。谷口さんの芯の部分の強さがすごく感じられますね。本日はありがとうございました!
編集後記
インタビュー中、谷口さんの口から何度も発せられた「社会課題を解決したい」という言葉には、一切の迷いがなく、確固たる信念が宿っていました。
医療や介護の現場が抱える慢性的かつ構造的な人手不足、そしてそこに便乗する人材ビジネスへの疑問視。
当事者でさえ「仕方がない」と諦めてしまいそうな歪んだ現状に対し、真っ正面から「組織の自給力を養う」というポリシーで挑む姿が非常に印象的でした。
最後に伺った「『なったらいいな』ではなく、そうなると『決める』」という言葉。
この圧倒的な覚悟こそが、周囲を巻き込み、社会の歪みを動かしていく原動力なのだと肌で実感させられる取材となりました。
谷口さんが描く、誰もが世の中に存在していることに自信を持てる未来の実現を、これからも応援し続けたいと思います!
編集長 太田 悠斗
広島発・挑戦応援メディア